昨今“AI(人工知能)”という言葉はさまざまな形でメディアに取り上げられている。
「今後10~20年の間に約50%の仕事がAIに仕事が奪われる」「囲碁や将棋用に開発されたAIに人間の棋士が負けた」、更には「シミュレーション対戦だけで自ら学習しながら強くなっていく新バージョンAIが開発された」…。
こんなニュースを聞いていると、AIの進化は我々にとって脅威であるような錯覚をしてしまう。
「現時点のAIは特定の分野には力を発揮するものの、汎用的にさまざまな対応をすることはまだまだ難しいとされています」と話すのは静岡理工科大学コンピュータシステム学科・適応システム研究室の高野講師だ。
青いネコ型ロボットのように、臨機応変に未来の道具でなんでもかんでも解決してくれるようなマルチな才能も、天才物理学者故ホーキング博士が発言した”人類の終焉をもたらすかもしれない”というような力も、現在のAIにはまだまだ備わっていないのだ。
最高のパートナーとして
AIが人を助ける未来に
既に暮らしの中に私たちを助けるAIは存在している。
Amazonで買い物をすると直ぐに気づくと思うが、閲覧者の買い物の履歴によって、”おすすめ”される商品が変わってくる。あなたの買い物履歴、チェックした商品、さらに”協調フィルタリング”といって、他の人たちがあなたと同じ商品を買った後に何をよく買っているかなどをデータとして取り込み、最適であろう商品を勧めてくる。
AIは既に私達の傍らにそっと寄り添い始めているのだ。
データを活用し、多くのパターンを”学習”、あなたの行動から”推論”し、最適な選択肢を”判断”する、これがAIの特徴だ。
銀行では“AIによる融資判断”も研究されているという。大量の情報と多くの経験が必要な法人への融資判断。対象法人の返済能力、過去の様々な融資ケースに関する多彩なデータ。それらを総合的にすり合わせていく。これによって融資判断のリスクと人間の労力が減らせるという目論見だ。
似たようなケースとして不動産会社は、膨大な契約データをもとにAIが最適な物件を提案する検索を採用している。今後は住んだ人にしか分からないようなデータ(例えば温・湿度、明るさや騒音、周辺施設など)を収集し、活用しようという動きもあるそうだ。
マスコミに登場するのはスケールの大きな話が殆どだが、情報が複雑になればなるほど、遺憾無く発揮されるAIの能力、それはもっと身近な問題の解決こそ役立つと高野講師は言う。
「人材が限られる小規模の町工場こそ、在庫管理などの事務作業にAIは活用されるべきです。日常生活にしてみても、AIを取り入れたらラクになるのに、楽しいのに、ということは溢れているはずです。疑問や興味を持つことでもっとAIを活用する場面が増えるのではないでしょうか」。
こんなことにも使えるの!?
思いもよらない問題がAIで解決できるかも!
高野講師の研究室では、本当に身近なものにAIを活用しようと頭をひねっている。
より個人の志向に即した「料理店」検索や、災害時にリアルタイムで自動更新されていく避難マップなどを研究している。ネット上に溢れるユーザーの「コメント」、Twitterでつぶやかれた一般市民や公的な情報を集め、細かなキーワードを活かして、より情報の精度を高めていく試みだ。AIが履歴を蓄積、好みにあった店舗や、刻々と変化する避難経路や避難場所をリアルタイムでネット上のマップに反映させようというのだ。
「未来には、音声システムと雑談しているうちに食の好みをAIが分析して蓄積、検索結果に反映させることもできるようになるかもしれませんね」。
多彩で複雑な情報をまとめる作業はまさにAIの領域。一方でひらめきや直感などゼロから生み出すイノベーティブな行為は現時点のAIは苦手とされている。前述のように、人が出した数えきれないアイデアをAIが整理して最適な答えを導くような分業は、お互いの長所を活かした、まさに理想の未来のカタチではないだろうか?
どこか最先端の企業が開発した「まるで人間のようだが、仕組みすらわからないAIに振り回される」未来より、皆がAIに対する知識を持ち、AIを使って積極的に問題を解決するようになる未来。
「身近なところにAIはある」…それをもっと理解し利用していくことで、もっともっと便利な未来へ、加速度的に向かっていくことができるようになるだろう。
the 研究者
静岡理工科大学
高野 敏明 講師
人工知能は様々な分野で活躍していますが、その反面、多くのことをさせようとすれば学習時間を長く取らなくてはなりません。その学習を高速化させることで生活に便利な身近なアプリケーションを実現することができるのではないでしょうか。