「測る、量る、計る」はロボットに知性を与えるテクノロジー。

-「ハカル」技術がロボットに知性を与える-

「測る、量る、計る」はロボットに知性を与えるテクノロジー。-「ハカル」技術がロボットに知性を与える-

ロボットとは自ら動くために、
生物と同じような「感知する」機能を手に入れた機械。

いまや帰宅すれば照明やエアコンのスイッチが入り、
クルマの自動運転やドローンによる宅配サービスが秒読み段階、
住宅や自動車、そして航空機などロボットは
さまざまなカタチで日常に入り込んできている。

それらを支えているのは、
ロボットの「五感」をつくる研究だ。

今回は、その一端を覗いてみよう。

「現実世界」と「知の世界」をつなぐ
極めて重要なインターフェース

「現実世界」と「知の世界」をつなぐ極めて重要なインターフェース

ヒトは「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触れる」といった五感を活用して「認識」しようとする。ロボットも、そのロジックは同じ。光や音、温度などの外部情報を信号化する「センサ」が人体でいう五感の役割を果たし、頭脳であるコンピュータやAIで情報を処理した上で、カラダの代わりとなる本体に指令を送っている。つまりセンサという入り口がなければ、シンプルな構造のロボットでさえ成り立たないのだ。

「現実世界」と「知の世界」をつなぐ極めて重要なインターフェース

言い換えるならばセンサとは、私たちが暮らす「現実世界」と、ロボットの思考を司るコンピュータ=「知の世界」とをつなぐためになくてはならない、極めて重要なインターフェース。この分野を研究しているのが『計測工学』だ。位置、長さ、角度、形状、速度、姿勢、力、トルク、温度、圧力、音、果ては分子構造や原子構造など、ヒトの五感を再現し、それを超えようというだけあってその内容は多岐にわたる。なかでもとりわけ汎用性、活躍頻度が高いのは、冒頭でも述べた通り、やはり人の「見る」という行為に相当するセンサだろう。長年この分野に携わってきた飛田和輝准教授に、その魅力を尋ねてみた。

インテグレーションによって
ヒトの役に立つ未来をつくる

インテグレーションによってヒトの役に立つ未来をつくる

「空間を認識するとき、ヒトなら“見る”というシンプルな行為で済みますが、ロボットの場合そうはいきません。ロボットが空間を認識するためにはその広がりを数値化することが必要です。つまり広がりや目標物までの距離を正確に計測する必要があるのです。現在よく利用されているのが例えばホームセンターでも手に入るレーザー式の計測技術です。原理は次のとおりです。光を放ち、それが戻ってくるまでの“時間”を1億分の1秒ぐらいの単位で計って距離に換算していたりするんですね。さらに広がりを掴むためには、距離だけでなく角度を精度良く測る技術も欠かせません。『計測工学』とは、まず自然界における何らかの量を電気信号に変換し、どう処理させるかを考えること。つまり“はかる”ことで機械に知性を与えるんです」

そしてエンジニアリングとは、人の役に立つモノをつくることだ。飛田准教授はこれまでに、福祉関連ロボットの開発や産業用ロボット用センサの開発に多く携わってきた。杖のようなカタチをしたガイダンスロボットは、視覚障がい者を目的地へ連れて行ってくれる。これも目的はシンプルだが、障害物を感知するセンサ、現在位置を把握するセンサ、手で握るグリップに加わったチカラを検出するセンサなど、とてもたくさんの技術が詰め込まれている。「この分野、個々の技術に派手さはありませんが、いろんな技術をインテグレーション(融合)することで、新しいものをつくっていくおもしろさがあるんです」。

インテグレーションによってヒトの役に立つ未来をつくる

これまでに開発したガイダンスロボットは病院などの屋内仕様だが、これからは屋外で使えるものを想定して開発していきたいという。「屋内と屋外。状況が変われば、見た目は同じでも中身はまったく変わってくる。特定の建物のなかでは壁の形状などで現在位置を把握させますが、外だとGPSと連動させたり、路面の凸凹をどうやり過ごすか、歩行者用信号の変化をどうやって感知してどう伝えるかなど、課題はたくさんあります。でも、けっきょくやっていて楽しいんですよね(笑)。楽しんでやって、新しいものをつくって、人の役に立つ。それがモチベーションにつながっています。学生にも普段から楽しんで研究するよう伝えています。楽しむことは学ぶために大事なことです」。

飛田准教授の目指す屋外用のガイダンスロボットが完成すれば、自分自身の2本の足で視覚障がい者がひとりで自由に、世界中を旅できるようになる日が来るかもしれない。音声を認識するセンサを組み込んで、行きたいところを告げれば連れて行ってくれるなど、夢は膨らむ。
彼は「はかる=知性」と言ったが、計測工学とは「はかることで未来をつくること」ともいえるだろう。

インテグレーションによってヒトの役に立つ未来をつくる

ライター:志馬 唯

the 研究者

静岡理工科大学 飛田 和輝 准教授
静岡理工科大学
飛田 和輝 准教授

対象によって何を「はかる」ことが大事か考え、福祉分野での車椅子誘導ロボット、産業分野でのロボットハンドなど、人の生活・作業支援に資する研究にチャレンジしている。「ロボットなどのメカトロニクスシステムは、周囲や自分の状況を調べるセンサ、センサの情報を認識・判断するコンピュータ、判断結果に基づき動きを作り出すアクチュエータから構成され、それらを総合的にコミュニケーション、インテグレーションすることで成立します。速度や位置、障害物までの距離など『はかる』ことは機械に知性を与えるのです」。

飛田 和輝 准教授 プロフィール

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