未だ見ぬ“宝物”を探してー天然有機化合物が語るバイオテクノロジーの可能性-

“宝探し”といえばトレジャーハンターだ。人によっては、映画トゥームレイダーや古いところではインディ=ジョーンズなどの映画で主人公がお宝を求め、世界中を飛び回る冒険活劇を思い浮かべるかもしれない。

そんな“お宝”を発見する喜びを、あなたも味わうことができるかもしれないとしたらどうだろう?
いや、なにもエジプトの王墓やマヤの古代遺跡に潜入する必要はない。
探し物はあなたのすぐそばに潜んでいるかもしれないのだ。

今回は、そんなトレジャーハンター…
もとい、研究者の話である。

ボルネオのジャングルで見つけた
フトモモ科の植物が〝抗カビ剤”の原料に

「私たちが探し求めるのは“生物が作り出す化学物質”です。その中でも特に、“新しい機能性を持つもの”や“これまでになかった構造を有するもの”を植物、微生物および海洋生物などの天然資源から見つけ出すことが大きな目的です。これは“天然物化学”という学問の一分野で、これまでに未確認であった化学物質を発見することも夢ではありません」と自身の研究を話すのは、静岡理工科大学理工学部物質生命科学科の鎌田昂講師だ。フィールドワークにより見つけ出した化学物質が、人類に役立つ医薬品開発などに繋がる可能性もあるのだ。

島のテングザルとオランウータン(提供:大阪大学 大谷洋介講師)

鎌田講師はマレーシア国立サバ大学に研究者として籍を置いていた時、調査の一環で美しい花々が咲き乱れ、瑠璃色の蝶が舞うジャングルの奥地に足を踏み入れることが多かったという。ご存じのようにボルネオ島は地上最後の楽園として世界的に有名で、まだ見ぬ生物の宝庫でもある。

「現地で、土着民族の人たちがお腹を下したときなどに食べるというフトモモ科の植物(Syzygium leucoxylon)を見せてもらったんです。彼らは、胃腸の不調があればそれを食すのだそうです。面白い風習だなと思って、その化学成分を分析してみることにしました」

一般的なフトモモも食用・薬用に使われるが…

もともと一般的なフトモモ科に関しては、抗酸化・抗菌などに役立つ化学物質が含まれていることは知られていたようだが、ボルネオの生育種に関してはあまりデータがなかった。そこで研究を始めると「海産のカビを防ぐ」新しい化学物質を獲得することができたのだ。

折しも現地の水産養殖場ではカニやエビの幼生がカビで死んでしまうという事案が問題になっていた。現地企業の協力を得て、地産地消できる“防カビ剤”を“作り、特許を申請し、実用化に向けた取り組みがスタートしている。鎌田講師らの研究グループが発見した知見は、水産養殖場にとってはまさに“宝”であったといえる。

研究実績が評価され、イノベーションコンクールにて金賞を受賞(ITEX2017、マレーシア)

駿河湾で新種・新規化合物発見なるか?
藻類の持つ偉大な力を明らかにしたい

海外での研究活動を経て、静岡理工科大学に着任した鎌田講師は、駿河湾をはじめとする静岡県内の浅海を採集の場として、新しい機能性をもつ新規化合物の発見に挑戦している。

「最近では、静岡県が推進するマリンオープンイノベーションプロジェクト(外部サイト参照:https://maoi-i.jp/)が注目を集めています。この流れの中、静岡県水産技術研究所の共同研究者たちと協力しながら、今まで手付かずであった駿河湾に生育する藻類を調べています。そこには未・低利用生物資源がたくさん存在し、まだまだ研究の余地があります」
どこにでも生えている海藻の一種である紅藻(こうそう)ソゾには、臭素や塩素などのハロゲン原子を含む有機化合物を作り出すものがあることが知られおり、鎌田講師はそこに着目した。これまでに北海道から沖縄県までに及ぶ日本全域において、紅藻ソゾの分布調査・化学成分分析を行なってきたが、研究活動の拠点を静岡県に構えたことで、駿河湾一帯を調査領域に定めた。

実際に静岡県御前崎市から南伊豆町にかけての3地点で採集した紅藻ソゾ属の海藻を調査すると、その多くがミツデソゾであった。ミツデソゾは、北海道から本州にかけて広く分布する種で最も一般的に見られるソゾの一つである。過去には、エンシュウソゾやニッポンソゾなどが採集されたという報告もあるが、実施した調査では発見に至ってはいない。しかしながら、南伊豆町においてはモツレソゾと思われる藻体の生育が確認され、この他、未同定のソゾも複数種採集できたため、北海道大学総合博物館にその同定を依頼しているという。

こうして採集したミツデソゾとミツデソゾ様の未同定ソゾに対して化学成分分析を行うと、6種の含ハロゲン化合物が見つかった。得られた純化合物に関して、遺伝毒性と抗真菌活性を調べると、乾燥藻体から高収率で回収された含ハロゲン化合物の“laurinterol”が強い生物活性を示すことが確認できたのである。
「未だ全ての実験結果は出揃っていない」と前置きは入るものの、“laurinterol”がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して市販の抗菌薬以上の効果を発揮したそうだ。

MRSAは食中毒や肺炎・髄膜炎など致死的な感染症の原因となる菌として知られている。そんな菌に対して効果が得られるような化合物が、静岡県内の沿岸に分布する藻類の中から発見されたことは、驚きである。
既知の生物や化合物で今まで無価値だと思われていたり、民間伝承程度で埋もれていたものが、未来の医療に役立つことだって十分ありうるのだ。今後の研究成果に期待したい。

******

ダルハウジー大学とハワイ大学の計算によれば、陸の生物の約86%と海の生物約91%が未だに見つかっていないと言われている。そもそも海洋の95%は未調査だと言われているわけで、これからもどんどん新しい宝物(未知の生物や化合物)が発見されていくことだろう。

「その地域の天然資源を使って、現地で起きている問題を解決したい。研究が成功すれば、お世話になった地域に実利をフィードバックすることも可能です。今後も学生と一緒に“宝探し”を楽しみながら、医薬・農薬・食品開発の観点から地域の人の役に立つ研究ができたら幸せです」

the 研究者

静岡理工科大学
鎌田昂 講師

生物は様々な化学物質を生産しながら生きており、生命活動に必須ではない種特異的な化学物質は二次代謝物と呼ばれる。人類は古来、二次代謝物を薬・毒・染料そして香料として利用してきた。このように、動植物や微生物が生産している物質を分離して、その物質の構造と機能を解明する有機化学の一分野を“天然物化学”と呼ぶ。私の専門は、その中でも、海藻や軟体サンゴなどの海洋生物と陸上の苔類などである。その採集の場は、日本のみならずマレーシアにまで及ぶ。本学は、静岡市と浜松市という二大都市に隣接しながらも自然・生物資源が豊かな教育環境にある。私が得意とする天然物有機化学や化学生態学の知見をバックグラウンドとして、本学の基本理念のひとつである「実社会で有用となる人間力を育む」に結びつけられるよう努力したい。

天然物化学研究室(鎌田昴研究室)はコチラ

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