財布・家の鍵・書類など重要なものから、ペン・ノートまで、モノを無くしたことのない人はいないはずだ。
急いでいるときに探し物が見つからず不安や怒りでイライラして視界に入ってこないこともあるだろう。”ここにはないはず”や”確かこの色だった”などの思い込みがあると視界に入っていても行方不明になるのだ。
まして、その場を離れている間に誰かが動かしてしまった、としたらもうお手上げだ。その誰かさんが戻ってくるのを待つしかない。
もう、身の回りの品全部にICタグでもつけて、位置情報で管理できたらどれだけ良いことか!…しかし自分の持ち物すべてにICタグをつけ続ける行為の面倒臭さを考えたら、本の一冊くらいなくなっても構わないと思えてくる。
ICタグをつけずに
モノを管理する方法とは?
ICタグをつけたりしなくても探し物の位置を特定できるかも、と話していたのは静岡理工科大学情報学部情報デザイン学科の工藤司教授だ。
「中国人の留学生が研究室にいた時に、よく本をどこにしまったのか分からなくなるって言うんですよ。日本語で書かれた本を背表紙でさっと判断するのも難しかったのでしょう。で、スマートグラスを使ってAIでモノ探しができないかな、と考えました」。
工藤教授は「工場の在庫管理」について研究論文にまとめている。多くの工場は一つの製品を完成させるために何十、時には何百という種類のボルトやナットが使われる。結果として数千もの棚に大量の部品を抱え、その欠品で工場がストップしないように管理することになる。現状の管理方法は実にシンプルだ。目視で”そろそろ無くなるかな?”と判断して発注をかけるのだ。そこで正確な管理を目指した工藤教授と研究室の学生が数千ある棚の素材すべてを数えようとしたが、さすがに音をあげたという。
このような小さく多くの種類が存在する部品個々にICタグを貼って管理するのは現実的ではない。より現実的で効率的な方法として考えたのが「目分量」をAIが行うことだった。
どういうことかというと、
在庫棚を常に監視するカメラを設置して在庫の増減をAIが監視する。在庫が「足りている」「足りない」とする画像を設定し、AIが在庫棚の画像を見て「足りない」と判断すると自動で発注を行うというシステムを作るのだ。
「このシステムは私達の日常生活に応用ができるのですよ。コーヒー豆や米など”あっ、そういえば切らしてたんだった”ということはよくあることです。この在庫管理方法を応用すれば、“買い忘れ“はなくなるでしょうね」と工藤教授は話す。
スマートグラスとAIが
”ものの探し方”を変えていく
ここで、話は”探し物”につながる。
例えば研究者が何冊もの本を取り出して読んでいる。スマートグラスをかけながら読書をし、済んだものから本棚に戻していく。
「さっき読んでいたあの本はどこだっけ?」と本棚に目を向ける。
システムを組み込んだスマートグラスには研究者が読んだ本の履歴が残っている。キャプチャした画像と現実世界を照らし合わせて、どこにその本があるのか指し示してくれる。
更には本の背表紙を見てタイトルをAIが認識、ネット上で検索にかけて内容をグラスのディスプレイに表示したり、希望する内容の本を目の前にある棚から検索、最適な本の背表紙をピックアップしたりすることもできるようになるかもしれない。
AIを搭載したスマートグラスが常に現実世界からキーとなる画像を切り取り続ける。それを遡ることで、どこに何があって、どんな状況なのか、あなたがすべて手に取るようにわかる。
遠くない未来に“探し物”の行方はAIが指し示してくれるに違いない。
人間が”忘れる”ことを忘れる日が来るのかもしれない。
the 研究者
静岡理工科大学
工藤 司 教授
学校や図書館・商店・工場・市役所など私たちの身近な組織には情報システムが導入されています。これらの情報システムは総称して「経営情報システム」といいます。また最近はこの中でも、インターネットを活用したe-ビジネスシステムが普及しています。私たちの研究室では、このようなシステムの運用・開発方法論の研究を行っています。