世界のエネルギー危機を救う”モータの進化”

「街中で人に声をかけたら、それが実はロボットだったんだよ」なんて落語のような話も、近い未来には普通の会話になるかもしれない。なにしろ、”2048年には人間よりもロボットの方が多くなる”という説まであるのだから。その話の中で、現在5700万台ほどあるロボットは着実に増加して2048年に940億台になると予測している。もちろん、人型ロボットばかりではないだろうが、目にする機会は確実に増えるだろう。

だがそんな未来への道のりには大きな問題がある。ロボットはバッテリーの電気と磁力の力で動く動力機”モータ”がなくては動かない。困ったことに、その”モータ”は地球上の電気エネルギーの約半分程度を消費してしまう”電気食い虫”なのだ。人間より多くなったら、それこそエネルギーは枯渇してしまうのではないか。

今回はその”モータ”の進化が「世界のエネルギー危機を救い、次世代自動車やロボットたちが普及する未来を創る」ための不可欠なカギである、という話をしよう。

ロボットや次世代自動車が普及する未来
電力を消費するモータの数は増加傾向に

電力を動力に変える「モータ」は私たちの日常生活に深く密接に関わっている。例えばあなたの家にある自動車には、おおよそどのくらいの数のモータが働いているのかご存知だろうか? ワイパー、パワーウインドー、ミラー…軽自動車ならば大小約50個、いわゆるミニバンのものならその倍の約100個、想像の上をいく数にきっと驚くはずだ。

周りを見渡せばすぐに目につく、エアコン・洗濯機・冷蔵庫など電気で動くものには、モータは欠かせないパーツだ。しかしそれほど重要でありながらも決して目に触れることはない、まるで縁の下の力持ち的な存在であり続けている。

数字上の話をすれば、世界の年間消費電力のうちモータが消費している電力量は全体の約4割を占めている。日本国内に限るとその数値は跳ね上がり、驚くことに全体の約6割を消費しているといわれる。現在稼働しているモータの[効率が1%アップすれば中規模の原子力発電所1つが不要になる]という話もあるが、あながち間違いではないだろう。
つまり、モータを”高効率化”すれば、叫ばれ続けている世界のエネルギー危機を救うことになるということだ。

「モータの高効率化…つまり少ない電力でより高いパフォーマンスが発揮できるようにすることは、将来さらに増えるであろうモータの需要・電力消費を考えると必ず達成しなければいけません」と話すのは、静岡理工科大学 理工学部 電気電子工学科の服部知美准教授だ。

全世界の四輪車の保有台数は2016年の段階で13億台程度(JAMAホームページより)だが、それらのほとんどがエンジンの代わりにモータで走る電気自動車(EV)になる日が来る。さらに、モータを大量に使うロボット市場の拡大傾向は明らかで、2015年まで1.6兆円だったロボット市場は2035年までに9.7兆円にまで膨れ上がるという試算が出ている(月刊「事業構想」より)。そうなればモータの数は増え、消費電力量は急増する。

これらが極近い未来の出来事として予測されている現在、モータの満たすべき性能は「高効率(省エネルギー)」そして「振動・騒音の少なさ(快適性)」だと服部准教授は考えている。

世界の消費電力量の4割を占める
モータを“高効率化”せよ!

では、どのようにモータを高効率化するのか?

モータとは、電線を螺旋状や渦巻状に巻いた”コイル”に電流を流すことで発生した磁界が磁石と反発したり引き合ったりすることで、回転する動力を生み出すもの。つまり「コイルを形作る電線に電流を無駄なく流すこと=決められたスペースにいかに多くの電線を収めるか」がモータ高効率化につながるひとつの手段なのである。

まず問題となっていたのは”電線の形状”だ。従来は丸型のものばかりで、巻き重ねた時に隙間が多くなり非効率だった(下図左下)。しかし現在では、加工技術の進歩により平型の電線を用いたコイルの大量生産が実現している。

また電線をコーティングする”絶縁体”も重要。モータの小型化が進むと絶縁体への負荷が大きくなる。従来の技術では、ある程度の厚みがないと電圧に耐えられなかったため、スペースにも無駄が生じてしまっていた。現在はなるべく薄いコーティングを施すだけで効果が得られるように技術改良が重ねられているという。

服部准教授はこれらの技術を応用し、新たな形の高効率モータを製作している。
研究途中ではあるものの、ゴルフカートに使われている従来型のモータを改良。平型の電線でも生じてしまう、ほんの少しの隙間をも埋めたコイルをモータに使用したところ、なんと従来型の3倍の出力を得ることができた。
これが実用化されれば、消費電力量の大幅な圧縮ができる。モータをより小型化できるようになり、用途が増えていくだろう。

振動・騒音を発生させない
緻密な動きも可能にするモータの進化

「振動・騒音の少なさ」の必要性については、ロボット市場の拡大を細かく見ていくのがわかりやすい。

これからのロボット市場は、今までメインとなっていたモノの組立てをサポートする等の工場で稼働する製造分野より、医療や介護、飲食店等のサービス分野において市場規模が爆発的に増えると予想される。現在で言えば”pepper”や”Sota”などのコミュニケーションロボットや、”ugo”などの家事代行ロボット、”ダヴィンチ”など医療用の手術ロボットなどのことだと思っていただければいい。建物の点検・清掃などを自動で行ってくれたり、接客をしたり、物を運んでくれるロボットもこれに含まれる。

「例えば手術や小さな部品を加工する作業など、繊細な動きが必要となるロボットにおいて、振動によるブレは致命的になります。またEVをはじめ、身の回りにモータを搭載したロボットや家電製品が増えれば、回転による振動や騒音は不快なもの。”より振動が少なく静かである”ことも大切になってきます」と服部准教授は話す。モータを搭載するロボットなどの機器がより身近になる程、静音性・低振動は大切になるのだ。

服部准教授は、モータの設置状況に関わらずモータ回転軸の揺れを抑えるように電流を調整する制御システムを開発し、特許も取得している。高効率モータにこの制御システムを組み込むことで、振動・騒音を抑え、より効率よくモータを稼働させることができた。これは次世代のテクノロジーに欠かせない重要な研究成果だ。モータが使われる場所は今後も屋内外さまざまに広がっていくが、その状況に対応する制御システムがあればいつ・どこでも緻密な作業ができ、なおかつ長く稼働できるようになる。

快適性と高効率の両輪がうまく噛み合ってこそ未来の発展につながる。
1部品であるモータだが、その進化がより良い未来を創っていくと言っても過言ではない。

the 研究者

静岡理工科大学
服部知美 准教授

省エネの観点から運転時間の長いモータの効率を上げることは非常に重要。またモータ駆動時に発生する振動・騒音は人へ不快感を与えるため低減が必要。同研究室ではモータの高効率化・低振動化(低騒音化)を実現するために研究をしている。

システムコントロール研究室(服部研究室)はコチラ

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