見えない地下で起きる災害を未然に防げ!

東日本大震災時に地下で起きた
「液状化現象」の恐怖

2011年3月11日に起きた東日本大震災はさまざまな被害をもたらした。地震の揺れによって倒れる建物、津波によって押し流される車や家…いつまでたってもその衝撃的な映像が脳裏から離れない。

その中で、津波で転倒した鉄筋コンクリート造のビルがあったのをご存知だろうか。転倒したビルには、杭基礎が折れることなく地中から抜け出た事例も確認されている。通常、津波だけの力で生じた現象とは考えにくく、地震の力により地中で起きていた″あるアクシデント″が原因のひとつであったと報告されている。

地中に打たれたビルの杭基礎を引き抜いた”アクシデント”とは「液状化現象」である。

埋立地の被害と
液状化現象のメカニズム

マンホールが地下からせり上がってきた様子(🄬PIXTA)

震災全体の被害も恐ろしいものだったが、液状化現象での被害が特にひどかった東京湾沿岸部における浦安市などの事例は当時大きく報道された。地震後の映像は動画SNS上にも残っているが、地面がまるで水のように波打っていて、現実と信じがたいような違和感があった。道路の端に植えられた低木群が波に揺られたように上下に揺れたり、灰色の水が地面から噴き出し、マンホールの筒が地中から突き上げられたかのように突起したりしていたのだ。

どうして液状化が起こってしまうのだろうか。

「土には年齢があり、積み重ねるごとに安定していきます。埋め立てなどで“土が若い”土地は液状化しやすいのです」と話すのは、地盤工学を専門としており、液状化現象に詳しい中澤博志教授(静岡理工科大学 土木工学科設置準備室)だ。現在の浦安市の約4分の3は1964年からの埋め立て地であり(※1)、その一帯に関しては被害が大きかったのだという。(※1:浦安市HP[浦安市の海面埋め立て]より)

通常、地盤は土の種類によって強度の発揮の仕方が異なるが、液状化してしまうような砂の場合、砂粒子同士が接触し直接力を伝えあって安定している。その砂粒子が地震の強い揺れによって隙間に存在していた地下水の水圧上昇が原因で〝離れ離れ″になり、砂粒子は水に浮いたような形になる。これが【液状化現象】である。液状化することによって、土中の軽い物は浮き上がり、地上の重いものは沈下していく。地表の割れ目などからは、地下水や砂が噴き出し地盤沈下が生じることとなる。マンホールや水道管など中空のものは、浮力によって地表に浮き上がるというわけだ。

液状化しやすい土地の
災害を未然に防ぐには?

「大地震が発生した際、液状化被害を完全にゼロにすることは難しいため、最小限に抑える施策を取って、 災害後いかに素早く人々の生活やインフラを復旧させるかが大切。私たちの役割は”当たり前を維持する”ことです」と中澤教授は強調する。

30年以内に70~80%の確率で起こるだろうといわれる南海トラフ地震やそのほかに危惧される大地震に対応するため、液状化対策は必須だ。

対策には様々な方法があるが、一般的には液状化への抵抗力を高めるために液状化する地層を締め固め”密”にしたり、薬液を地盤に浸透させ、砂粒子同士を接着し固化して対処したりしている。加えて、中澤教授が研究してきた対策は、地盤に空気を注入することで”水圧を上げさせない”方法だ。マイクロバブルという微小な空気を含んだ水を地面に流し入れていく施工で、空気がクッションの役割を果たして土の粒子を崩さないように作用する。素材が空気なのはコスト面にも環境面にも良いことだろう。

しかし、日本は自然災害が多く、上記のように大地震・液状化以外にも、地盤災害は別の問題も起こっている。例えば「地中の空洞化」である。我々の生活空間で、突如として地面陥没するなど2次被害の原因になりかねない事象で、目に見えない地中で進行していくため非常に厄介だ。

地中を”見える化”する
未来は来るか?

現在、液状化する地層をボーリング調査で確認したり、空洞のなどの調査には物理探査手法が用いられているが、地中の様子が直接目で見えたらどんなに楽だろうか。

例えば、地中レーダーをもっと小型・軽量化して、自家用車…難しければ、トラックなどの大型車両に設置して調査車の替わりにならないか。そこから毎日得た膨大なデータを集約して日本全国の地下の地層や埋設物などの状態をアップロードし続け、リアルタイムで地下の変状や状態を把握出来たら…。液状化をはじめ、地盤の被害を少しでも未然に防げるかもしれない。

地下の様子を可視化できる未来は来るか(イメージ)

現状では、ボーリングデータを集積して地盤モデリングをするのが通常だ。前述の理想にはほど遠いと感じるかもしれない。しかし、一方で地下構造物の維持管理などには、地中レーダーの利活用や情報化技術が展開されつつあるのだ。

よりテクノロジーが進化した未来には「リアルタイムで地中の変化を可視化していく」ことも決してありえない話ではないだろう。

the 研究者

静岡理工科大学
中澤博志 教授

地盤工学・地盤防災工学・土質力学・土質動力学を専門としている。 地盤の液状化対策とその評価方法や対策のための地盤改良に関する技術開発などについて研究している。

自動運転車に「究極の乗り心地」を。

人口減の未来を補完するAI研究が優れたエンジニアを生む

関連記事

  1. 来るべき大地震・津波から命を守る建築

    2011年3月11日に起きた「東日本大震災」は、その恐ろしい映像とともに日本国民だけでなく、世界にも…

  2. 太古より受け継がれる「金属」に秘められたロマンと未来

    錬金術。それはただの金属から高価な貴金属を生み出そうとした太古の人々のロ…

  3. 翼が無くても空が飛べる。エアロダイナミクスが創造する未来

    “翼なしで飛ぶ乗り物”と聞いてあなたはどんなイメージを思い描くだろうか?個人的にはバック・ト…

  4. 「耳が聞こえない」が無くなる? 生物の機能で発電する”…

    人間の体は電気で動いている。そう言うとまるでロボットの話をしているようだが、人間は脳からの指令を…

  5. “空飛ぶクルマ” エア・モビリティを世界…

    家を出てふと空を見上げると、4つのロータ(回転翼)がついた巨大なドローン仕様の機体が何十台も飛び交っ…

  6. AIが人を”さがしもの”から解放する

    財布・家の鍵・書類など重要なものから、ペン・ノートまで、モノを無くしたことのない人はいないはずだ。…

  7. 人口減の未来を補完するAI研究が優れたエンジニアを生む

    団塊世代が一斉に”高齢者”の括りに入った現在、医療・福祉業界では、そもそも高齢化で需要が多くなって…

  8. 世界のエネルギー危機を救う”モータの進化”…

    「街中で人に声をかけたら、それが実はロボットだったんだよ」なんて落語のような話も、近い未来には普通の…

PAGE TOP