― CHANGE THE FUTURE 特別編 ―
TOYOTA、HONDA、NISSAN、MAZDA、SUZUKI、SUBARU、MITSUBISHI……。
日本を代表するカーメーカー各社を筆頭に、
150社近くの企業がスポンサーとなって開催される
「全日本学生フォーミュラ大会」。
モノづくり、特に自動車関係の企業に就職したい学生たちにとって、
年に一度のこの祭典への参加が
どれほど将来に役立つ有意義なものとなるのか。
その大いなる可能性をレポートする―。
「クルマづくりの甲子園」には
どんなチャンスが潜んでいるのか?
学生フォーミュラ大会とは、言うなれば「クルマづくりの甲子園」だ。毎年、海外校を含む100校近い大学が参加し、学生たちが自ら構想、企画、設計、製作した車両で競技を行う、日本最大規模の学生のためのモノづくりコンペティションである。1981年にアメリカ・ミシガン州での開催を皮切りに、イギリス、オーストラリア、ブラジル、イタリア、ドイツ、スペインなど各国に広まってきた、ワールドランキング制度も採用されているグローバルな大会だ。座学だけでは身につけられない“モノづくりの実践力”を育むことができ、国内の参加者は85%が自動車業界に就職(現自動車技術会正会員在籍者情報より2017年現在)。日本を、いや世界を支えるエンジニアとして活躍している。
工業系の高校ならクルマづくりにチャレンジする機会もあるだろうが、学生フォーミュラには参加することでしか味わえない醍醐味がある。それはスポンサー企業とのディープなコミュニケーションだ。大手カーメーカーをはじめ、名だたる自動車関連企業や工業系企業の担当者と名刺交換やアドバイスを受けられるだけにとどまらず、エンジンなどの部品提供や金銭的支援もあり、ときには共同開発を行うチャンスにも恵まれる。各社の強みを生かした年間20回以上の勉強会へ参加できるのも、クルマ好きにとっては大きな魅力だろう。つまり、各メーカーは期待しているのだ。学生フォーミュラに参加する学生たちが、将来自社にとって大きな戦力になってくれることを。
参加者たちが語る
やらなければわからない
もう一つの醍醐味
学生フォーミュラはただ速いクルマをつくればいいというわけではない。世界共通ルールである100を超える安全要件を満たした上で、デザイン、コスト、プレゼンテーションという3つの静的審査、サーキットを走行して走行性能、燃費、信頼性などを競う4つの動的審査に挑み、トップを争う。プロさながらの技術力とエンジニア・スピリッツが要求されるわけだ。大会はICV(ガソリンエンジン)クラスとEV(電気自動車)クラスに分かれており、ほとんどの出場校がどちらか片方を選ぶが、中には両方にチャレンジする猛者たちもごくわずかだが、いる。静岡理工科大学もその一つだ。チームリーダーである牧野駿さんと、ドライバーを務める杉浦聖大さんに、レースに参戦した者にしかわからない醍醐味を聞いてみた。
「メンバーは毎年20~30人。他チームに比べて決して多いとは言えない人数で、性格のちがう2種類のマシンをつくるのには苦労があります。動力源がちがえばパワーの出るタイミングもちがいますし、既定の車重も100キロ近くちがう。共通の設計にできる部分もありますが、できない部分の方が多い。でもその分、やりがいもあるし、何よりエンジニアとしての知見はかなり広がっていると思います」と、技術的なことを杉浦さんが語ると、それをカバーするように杉浦さんが参加することの充実感を話してくれた。「一般的には大学に入っても時間を持て余すよ、なんて言われますけど、学生フォーミュラに参加するとぜんぜんそんなことはなく、かなり濃密な大学生活を過ごせます。本業である学業をしっかりやりながら、クルマの基礎やモノづくりをたくさん学べるので、大変さは確かにありますけど、得られるものはものすごく大きいですよ」。
また、チームから巣立っていくエンジニアたちを見てきた監督役の野﨑孝志准教授は、生徒たちの成長ぶりをこう話す。「座学で学んでいただけでは、決してわからないものづくりの知恵を、彼らは身をもって学んでいます。これこそが企業が求める『実践力』です。さらに、スポンサーを募るために、自ら企業へ出向いて社会人と交渉し活動資金を得る。これも企業が求める『人間力』です。学生フォーミュラは、企業側としても人材の宝庫という目で見ています。自動車関連の道に進みたい学生にとって、この活動にチャレンジすることで、得られるものは計り知れません。」。
プロのエンジニアを目指す若者にとって、これほど格好のチャンスとスキルアップに恵まれている舞台はない。夢のモノづくり人生へと続く一本道は、誰にも等しく開かれている。
ライター:志馬 唯