“計算”が化学の世界を解き明かす

高校までの化学からは想像できない“計算化学”

水兵リーベ僕の船…これを口ずさんで元素記号を暗記した方、またはしている方は多いのではないだろうか? 周期表や化学式…そう、高等学校における化学は“暗記”のイメージが強い。しかし大学での化学はそんな印象を覆す学問へとその姿を大きく変える。今回取り上げるのはその象徴ともいえる分野だ。さまざまな物質・新素材・生体物質などの性質について、数式を駆使したコンピュータシミュレーションで明らかにすることができるという“計算化学”である。「実験」を優先する傾向のある化学の中にあって、一風変わった響きのある言葉だ。

ミクロの世界(原子や分子の中)では電子がどのように振舞うか、を学ぶ〝量子力学”を基礎に分子の成り立ち(構造)やその性質(物性や反応)を理論的に解明する学問分野である〝量子化学” …それをコンピュータの力で大きく発展させたのが〝計算化学”。〝化学”と名がつく学問だが、数字や数式など〝物理”のようなアプローチで目に見えない世界の構造を解き明かしていく。高等学校にあった科目間の壁を軽々と飛び越えて、深い知識を得ることができるのである。

コンピュータ上で“実験”する

“計算化学”では、ハイスペックのコンピュータを使って模擬実験を行う。簡単な化学反応であれば、模擬実験により反応の状態を見つけ、どのような仕組みでその反応が起こるのかも具体的に解明できるという。もちろん、コンピュータがすべて勝手に計算してくれるなどということはない。物理的な原理にもとづく計算手順を人の手でプログラムし、コンピュータに計算させることで、さまざまな現象の本質を知ることができ、実験結果の予測を立てることができるのだ。「実際の実験と結果をすり合わせることで、より確実な結論が得られる。もっと計算と実験がお互いに補完しあってもいいのでは、と思います」と、量子化学を専門とする関山秀雄教授は話す。

シミュレーションで新物質の設計を可能に

実は計算化学という分野は生まれてまだ1世紀も経っていない。それでもコンピュータの計算スピードは格段に速くなった。2017年現在のコンピュータでわずか数秒の計算が、仮に1946年に登場したコンピュータを使うとすると“自分の世代では終わらず、何世代にもわたった”時間がかかってしまう、という例えはその急変ぶりをよく表している。その急激な変化に比例するように計算化学もまた加速度的に進歩してきた。コンピュータのスペックは今でも高くなり続けているし、これからさらに伸びてゆく分野になることだろう。コンピュータシミュレーションによってさまざまな“新物質の設計”も可能になり、さらにその開発スピードも確実に速くなっていくはずだ。

 

the 研究者

静岡理工科大学
関山 秀雄 教授

分子同士の相互作用でつながる分子の集合体「分子クラスター」は単独の分子にはない性質をもっていることがあり、それが新たな反応試薬など新物質としての可能性も秘めています。いくつかの分子クラスターについて計算を用いて調べ、分子間相互作用の本質について研究しています。

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