コンクリート本来の力を引き出す製造法を追究せよ

私たちは建築を語るうえで、どうしてもその”見映え”を話題にしがちではないだろうか? しかし、デザインだけでは良い建築物はできないし、完成しても汎用性のないものや長く使えないものになることだってある。そもそも強度を保てないものは建築物ですらなく、目的を満たせず不要になるだけだ。

持続可能な社会が謳われる現代にあって、 後世に受け継ぎ、利用され続ける建築物を造るにはどうしたらよいだろうか。

今回は、その中で建築物の強度と建築材料としてのコンクリートに焦点をあててみたい。

コンクリートはデリケート?
混ぜる材料によって変わる性質

「良い建築は、良い材料、良い設計、良い施工による」
そう話すのは、自身の企業経験を踏まえ、“鉄筋コンクリートの最適な造り方”を研究している静岡理工科大学理工学部建築学科の太田達見教授だ。

“鉄筋”という芯を入れた“鉄筋コンクリート(RC)造”は耐久性とその強度で大きな信頼性を得ており、建築物には必ずと言っていいほど使われている。だが、鉄筋コンクリートが本来持つ耐久性を私たちは最大限に引き出すことができているのだろうか?

「“どんな建物を建てたいのか”や“どのくらいの強度が欲しいのか”など、建物の目的から逆算することで、最適なコンクリートに必要な素材や分量が決まります」と太田教授が話すように、コンクリートは“用途や目的が異なれば、素材の配合比率も変わるうえ、練り混ぜ始めてから刻一刻と性質が変化する”という実にデリケートな代物なのだ。

まずはコンクリート製造の基本について材料面から見てみよう。
コンクリートとはセメントと水、その中に強度を担保すべく、骨材と呼ばれる砂や砂利を混ぜて硬化させる複合材料である。シンプルだが、セメントも骨材も同じものを均一に用意することが難しい。
なぜか。メイン材料であるセメントは、素となる石灰石の産地などで品質が異なってくる。つまり原料が掘りつくされた、または原料の値段が上がったことなどの理由で仕入れ先が変わると、できあがるセメント(ひいてはコンクリート)の性質も変わるのである。

太田教授は、セメントだけでなく骨材にも“地域性”がある、と話す。
「流通コストを考えれば、コンクリートを使う地域に近いところで採れた材料を使うこと(地産地消)が理想的。私が関東にいた頃は骨材に“砕石・砕砂”を使うことが大半でしたが、静岡県のコンクリート製造の現場では “川砂利・川砂”を使っているところが多い。天竜川や大井川など大きな河川が多いからでしょう」。 “川砂利・川砂”は川底や川の近くから採取したもので、丸みを帯びているために型枠の中に隙間なく詰まり、品質面で安定しているといわれる。一方、砕かれて造られる“砕石・砕砂”は、天然の骨材と比べて角張っているため、骨材間に隙間が多くできてしまう。
このように“コンクリート”を一括りに論じるには、原材料の特性があまりにも多様なのだ。コンクリートのレシピである骨材量や水量は素材の特徴によって調整しなくてはならず、問題が生じれば素材ごとに検証する必要もある。

もちろん、生コンクリートの品質はJIS(日本工業規格)で規定されているので、材料自体に大きく品質で劣るものが出回る可能性はない。しかし、生コンクリートが硬化するまでの“造る過程で問題が起きうる”のだという。

コンクリート造りの過程に潜む
改善点を洗い出し最適解を探る

例えば、鉄筋コンクリートの壁を造るとしよう。
まずは固まっていない生コンクリートを、鉄筋が組み込まれた型枠に流し込んでいく(打込み作業)。そして打ち込んだコンクリートや型枠に振動を加え、型枠の隅々まで生コンクリートを行きわたらせ、さらに気泡が残らないよう“締固め”作業を行い、しっかりした(密実な)組織になるようにする。すべてのコンクリートを型枠の中に一気に流し込むわけではないので、一定時間を置いてから、継ぎ足すように生コンクリートを入れる(打重ね)。
このような施工はJASS5(建築工事標準仕様書・同解説 鉄筋コンクリート工事)といういわゆる“コンクリート工事のバイブル”に沿って行われるため、これに従ってしっかりと施工していれば一定の品質基準から外れることはないとされる。

JASS5はおよそ5年ごとに最新の知見を取り込みながら改訂されている。しかしながら、採用されている規定の中には、かなり以前の知見に基づくものもあり、現代のコンクリート事情に合わない部分があるのではと思うことがあるという。「あくまでJASS5を“基本”として、新素材や新技術を踏まえ今の時代や地域性に合致した最適な鉄筋コンクリートの造り方を模索していくのが良いのではないでしょうか」と太田教授は指摘する。

例えば“打重ね“で起こる問題を例に挙げてみよう。

最初に型枠内に流し込んだ生コンクリートが固まり始める前に、次の生コンクリートを重ね入れる。この重ね入れたコンクリートに押されることで、下層のコンクリートからは水分が絞り出されるように上昇し、上層のコンクリートは水分の多い組織になる可能性がある。水分が多いと、それが蒸発した時に微細な隙間が生じて粗い組織となり、時に求められる強度や耐久性が得られなくなる。これが早期のひび割れなどの原因になり、そのひび割れ部分からコンクリート内に侵入した水や酸素によって内部の鉄筋が腐食することになる。

劣化のメカニズムについて様々な見地から研究を重ねている太田教授は「どの程度締固めるのか?どの程度時間を置いて打ち重ねるのか?セメントなどの配合を変えたらどうなるのか?そういったことを材料レベルで細分化して検証することで、より現代に合った新たな施工基準を建築業界に提案することができるかもしれません」と話す。
過去のデータに頼れば現代の材料と施工方法と乖離する部分も多くなる。日本の亜熱帯化とそれによる豪雨、頻発する大小の地震…私たちを取り巻く自然環境が少しずつ厳しくなっていることを考えても、施工の教科書は更新されて然るベきだ。太田教授が携わっているような研究の数々が、建築の安全基準を支えていくことになるだろう。

これからの建築物は研究によってさらなる耐久性を得て、30年…50年…ときれいに年を重ねていくことだろう。時を経て用途が変わり、リノベーションを繰り返していく中にあっても、最適なレシピで造られた頑強な鉄筋コンクリートの躯体だけは、変わらずにそこにあり続けるに違いない。

※トップ画像は、安藤忠雄設計「光の教会+日曜学校(茨木春日丘教会)Нет 大阪建築

the 研究者

静岡理工科大学
太田達見 教授

鉄筋コンクリートを構築するセメントや骨材といった材料的な因子に加えて、コンクリートの打込み・締固めや打重ね時間間隔などの施工的な因子が打ち上がった鉄筋コンクリートの品質にどのような影響を及ぼすのかを定量的に評価・検証し、高品質で高耐久な鉄筋コンクリートの最適な造り方を研究している。

材料・施工研究室(太田達見研究室)はコチラ

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